小高い丘の上
小さなチャペルの鐘が鳴り響く
小鳥達が歌をさえずる
今日の幸せを祝うように
白き花嫁の幸せを願うように
さあっと草原に風が吹き抜けた
蒼い花弁を舞い散らせながら・・・
祝福の鐘の音が・・・鳴り渡る
「こら・・・花嫁がこんなところで寝てちゃだめでしょう?」
チャペルの離れ、花嫁の控え室に1人の女性が入ってきた
きらめく蜂蜜色の髪を結い上げ淡いピンクのカクテルドレスに身を包んでいる
その視線の先には木製のチェアに座ったまま眠る花嫁
結い上げた髪は空と海を切り抜いたような蒼
蒼青のドレスに身を包みすやすやと寝息を立てている
「ほら、おきて・・・」
化粧が落ちない程度にその額を突っついた
「ん・・・?」
「昨日眠れなかったんだって・・・?大丈夫?」
「エイ・・・リア・・・?」
エメラルドの瞳が開かれる
はっとエックスが体を起した
星型の装飾のついたティアラが揺れる
「え・・・?ここは・・・?」
「チャペルよ」
エックスはキョロキョロと辺りを見渡す
「どうしてこんな場所に・・・?」
「エ〜ックス」
エイリアが指先で白い額を弾いた
「寝ぼけるのも大概にしないと、新郎が拗ねちゃうわよ」
そういいながらも彼女の顔がふと真顔に戻る
「今まで散々泣かされてきたんだもの・・・その分幸せになりなさい
きっとあなた達2人ならどんなことでも乗り越えてゆけるわ」
「エ・・・エイリア・・・?」
彼女の真剣な顔に押されてエックスが名を呼んだ・・・しかし・・・
「じゃあ、私は式場に行くわね、結婚おめでとう、エックス」
彼女はそう微笑むと早々に出て行ってしまう
深緑の木漏れ日に隠れるように・・・
エックスはふと我に返って背後にあった姿見に自分の姿を映し見た
ふわりと膨らんだ胸部にいつもより丸みを帯びた躰
くるりと愛らしい大きな瞳が鏡の向こう側から覗いている
薄紅を引いた唇に薄桃色の頬が麗しい
蒼い髪は艶やかで絹糸のようにさらさらと首筋を撫でる
美しいドレスを纏ったその姿はいつもの自分とかけ離れていた
「え・・・っと・・・」
女性型への改造手術を申し出た覚えも
このチャペルで結婚する予定も全くない
もちろん相手の顔も名前もわからない
「一体・・・なにがどうなってるんだ・・・?」
そう呟いたそのとき
背後のドアが開く
「あ〜あ・・・やっぱ嫁いじまうんだな」
深紫の髪に灼熱の紅い瞳・・・燕尾服の彼がそう言った
「ス、スパイダー!?」
「どうした・・・大声だして?」
裏切ったはずの彼・・・
ギガンティスで別れて以来、久しぶりに目にしたその姿
「ホントにスパイダー・・・?」
「あたりまえだろう?ほかに誰に見えるって言うんだ?」
死んだはずの彼が当然というようににっとわらう
「しっかし・・・花婿に蹴りの一発でも食らわしてやりてぇな・・・」
「花婿・・・」
エックスが顔を曇らせると彼はなにを勘違いしたのか彼は苦笑した
「大丈夫だ、お前にあれだけ見せ付けられたら手も出せねぇよ」
おてあげだ、と両手を上げると笑いながらスパイダーはそっとヴェールをエックスに被せる
「ギガンティスでは俺がお前を守ってたのにな」
「・・・スパイダー・・・」
「・・・俺と一緒に・・・なんていう資格は俺にはねぇけど・・・な」
自嘲するその笑みがズキリといたんだ
こんなふうに生きて話が出来ているだけで嬉しいのにと思いながらも
不思議と気持ちは穏やかで・・・現状を当然のように受け入れている
「旦那が嫌になったらいつでも相談しろよ」
不敵な笑みを取り戻すと手の甲に口付けて彼はそう囁いた
そして踵を返すと式場へと出て行く
「俺はいつまでもお前を待ってるからな・・・」
そういい残して・・・
エックスが戸惑いながらも花婿が誰か悩み始めていた
すると再び・・・扉が開いた
「エックス」
両手に余るほどの淡いブルーの薔薇のブーケ
それを抱いて登場したのはブラウン・ゴールドの髪をした青年だ
紫紺の瞳が怪しげな輝きをまとっている
「えっと・・・」
誰かわからずに・・・しかし成り行きで彼からブーケを受け取るエックス
「ははは・・・僕だよ、そういえばアーマーを外してから会うのは初めてだったかな?」
「ゲイト・・・?」
恐る恐るその名を呼んでみる
「結婚おめでとう、エックス」
正解とばかりに向けられた笑みにエックスも微笑んだ
「花婿に妬けるよ・・・そんなに綺麗になるなんて・・・」
ふと苦笑する双眸は・・・それでいて優しく包むような視線向ける
「あ・・・ありがとう、ゲイト・・・このブーケ・・・」
そのままその視線に飲まれそうになったエックスはそう言ってブーケに視線を落とした
「本当は白い花がいいかと思ったんだけどね・・・でもエックスは蒼が似合うよ」
彼はそう笑うとティアラに軽く口付けた
「じゃあ、僕は式場で待ってるよ・・・君が誰かの物になるのは悲しいけどね」
ゲイトはそう言うとエックスに背を向けて歩き出す
「ありがとうエックス・・・君のおかげで僕は・・・君の美しい姿を見ることが出来た
あの時君に刃を向けたこと・・・今でも後悔しているよ・・・
・・・もし・・・あの事件で君と彼の絆が深まったなら・・・それはすごく皮肉なことだけど・・・」
彼が背中越しに言ったその言葉は海のように深い・・・感謝の思いに満ちていた
「つまり・・・スパイダーとゲイトはちがうんだ・・・花婿じゃない・・・」
再び1人になった個室でエックスは考え込んでいた
「じゃあ・・・誰が・・・?」
「エックスッ!」
ぎゅっとドレスに抱きついたのは自分より少し大きな・・・
しかしそれでいて幾分も幼く見える少年・・・アクセルだった
「いよいよ式だね・・・」
ため息と共にアクセルがそう言う
「あ〜あ・・・あとちょっとでエックスはお嫁さんかぁ・・・」
「あ・・・アクセル、式はいつからなんだ?」
恐る恐る問うエックス
「え?正午には式が始まるんでしょ?」
時計を見れば11時半をまわったところだ
「あと20分もないじゃないか・・・」
「大丈夫!化粧も落ちてないし・・・しっかし・・・エックスが嫁いじゃうのは嫌だな〜僕」
アクセルは顔の十字傷をなでながら苦笑した
「僕が最初からハンターになってれば、エックスは僕のお嫁さんだったかもしれないのに・・・」
「アクセル・・・」
「ま、後の祭りだけどさ・・・エックス・・・ぼくはエックスのこと・・・大好きだからね」
アクセルは軽くヴェールをあげてチュッと頬に口付けをする
「さあ、エックスもうそろそろ行こう?お兄さんが待ってるよ、廊下で」
彼は何事もなかったかのように微笑むと扉の向こうを指差した
「エックス・・・」
ふわりとした黒髪にマリンブルーの双眸・・・
礼服姿のブルースがチャペルへと向かう通路に立っていた
いつものサングラスも黄色いマフラーも巻いていない
「ブルースさん」
「エックス、本当にあの男でいいんだな」
薄っすら立ち昇る殺気
彼の目は真剣で・・・けれどとても心配そうにエックスを見つめている
エックスは微笑んだ・・・
彼の様子で・・・花婿が誰か・・・わかったのだ
「大丈夫・・・彼なら絶対に」
そう言って彼を思い浮かべた
宿命が解かれ様としてる・・・その嬉しさがこみ上げてきた
「・・・これをダイナモという男から預かってきた・・・」
エックスの様子を見て諦めが付いたのか、ブルースは1枚のカードを胸ポケットから取り出した
「ダイナモから・・・?」
エックスは彼からそのカードを受け取った
美しい花の描かれたそのカード・・・
その中央に彼からのメッセージがあった
『わりぃな、エックス。
俺はお前が誰かに嫁ぐ姿なんて見たくねぇんだ。
ま、困ったことがあったら呼んでくれ・・・いつでも駆けつけるからな!』
彼らしいメッセージ
きっと彼はこれを渡して早々に去っていったのだろう
「・・・そろそろ・・・式が始まる」
「ブルース、僕がエックスのヴェールを持つよ」
ヒョコッと現れたのは茶色い髪の少年だ
年のころなら10歳前後だろうか
アクアブルーの瞳がエックスを映した
一瞬アクセルかと思ったが彼の瞳は色が違うし
何より顔にあるべき大きな十字傷がない
「エックス、おめでとう」
「え・・・?」
見知らぬその少年がエックスに微笑みかける
エックスにもし・・・もし幼い時代があるとすればこんな少年だっただろう
「君は・・・だれ・・・?」
しかしその疑問と共にエックスはなんともいえない懐かしさを覚えていた
「エックス、これでいいんだよ・・・
君と彼が結ばれて・・・全てが終結する」
問いには答えず、少年がそう言った
「お互いを憎み合って、壊しあって・・・・いたちごっこに続いた全てが・・・・ここでおわる」
本当に嬉しそうに笑う少年はするりとエックスの後ろについて長いヴェールをもちあげた
「彼なら大丈夫・・・きっと命がけで・・・君を守ってくれるよ、この世界の平和も・・・ね」
少年がそう言うと、ブルースがエックスに腕を差し出す
「博士が生きていたらきっと喜んだのにね」
「ヴァージンロードを歩くのが俺ですまない・・・エックス・・・」
花嫁はその細く白い腕を彼の腕に絡めた
「ううん・・・幸せだよ・・・」
きっと扉の向こうに待っているのは彼に間違いないだろう
祝福の音楽が流れ始めた
レッドカーペットの上ガラスで出来た靴がひとりでに踊りだすような・・・
それほど・・・この幸せをエックスは望み喜んでいた・・・
目を閉じる
きっと大丈夫と・・・
ふわりとヴァージンロードを歩き出す
目は開けない・・・
目を開ければ祝福が壊れてしまうような気もする
一歩
また一歩
幸せに近づいているのはわかっている
けれど目は閉じたまま
決して長くはないその道
ブルースが歩みを止めた
エックスは目を開ける
俯いたまま・・・花婿に歩みよった
「エックス・・・」
聞き慣れた低い声に・・・エックスは顔を上げる
長い金の髪と・・・澄んだ水の蒼を見つめて・・・
エックスは・・・微笑んだ・・・
さあっと風が流れた
エックスは木漏れ日の中目を覚ます
「あれ・・・?ここは・・・」
大きな樹木の根元
まわりには美しい草原
「夢・・・だったのか・・・」
すっと横を見れば夢の中で微笑んだ彼・・・ゼロが樹にもたれて眠っている
「・・あんな結婚・・・できるわけないよね・・・」
すごく幸せだった分・・・夢であったのが惜しい・・・
そう思いながらくすっと笑い、エックスは長い金色の髪を手にとった
「でも・・・ずっと・・・一緒にたいな・・・」
それだけは望みたい・・・
彼はそんな願いを込めて金の髪にキスを落とした
「そのためにも早く平和な世界にしなきゃね・・・」
安らかな寝顔を見つめて・・・
蒼き英雄がそう呟く
その言葉を知るのはただ晩夏の風のみ・・・