蒼き薔薇
〜Branche〜
ネオ・アルカディア・・・玉座の間
蒼い影がひとつ、豪奢なその腰掛で眠りについていた
ミドルティーンの幼い顔が疲労のせいか、まるで老人のように活力がない
ただ・・・死へと向かう眠りについているようだ
その場に現れた彼は・・・心配になって蒼い髪を撫でた
本来は触れ合うことすら許されない主
それほどに高貴で純粋で脆い天使
しかし今は・・・触れなければ消えてしまいそうだった
「・・・ん・・・?」
エメラルドの瞳がうつらうつらとしながらも彼を映す
「ファ・・・ントム・・・?」
「エックス様・・・午後の公務は全て我等にお任せを・・・
今は休養をとるべきかと・・・」
仮面に隠れた顔からやさしい黒の瞳がエックスを見つめた
「・・・そんなわけには・・・」
そう言ってエックスが立ち上がろうとする
しかし、その体からはすぐにかくんと力が抜けてしまった
彼はそっとその体を支え・・・抱き上げる
「ファントム・・・僕は平気だよ・・・」
エックスは苦笑するもその腕の中に納まったままだ
「エックス様、今は休養すべき時、御身が倒れてはまた良からぬ輩が・・・」
「エックス様、俺もファントムと同意見です」
緑色のローブに身を包んだ青年、ハルピュイアがいつの間にかファントムの横まで来ていた
「今日の公務は全て俺達お任せを」
「・・・君達がそういってくれるなら・・・少し・・・甘えてもいいかい?」
衰弱した笑顔を見つめ、二人が頷いた
「・・・じゃあ・・・頼むよ・・・ごめんね」
「お任せを」
「御意」
彼らがそう返事をするとすうっと目を閉じて・・・エックスはファントムの腕の中すやすやと安らかな寝息を立て始めた
その寝顔に2人がほっと息をついた
「ファントム、エックス様を頼む」
ハルピュイアはそう言って部屋を後にする・・・
ファントムは小さく頷くと安らかに眠る主を設けられた彼の私室へと運んだのだった
ファントムはそっと主のブーツを脱がせると大きな寝台にその小さな体を横たえた
そっとシーツを被せて部屋の空調を入れる
そして周りを見渡した
滅多にはいることのない主の私室・・・
重厚な調度品は備え付けのもので決してエックスの趣味ではないだろう
ふと・・ファントムの目に大きなコルクボードが止まる
無数の写真が貼り付けられているそれ・・・
おそらく100年は前の代物だろうそれは軽く色あせ
しかしそれでいて確かな幸せをつかみかけていたころの時間がしっかりと切り抜かれている
今とは違う「レプリロイド」よりはるかに人間にちかい
否
人間らしい表情のエックスが写真の中で微笑んでいた
ファントムはそれに近づき1枚1枚丁寧に見てゆく
最近処分されたアクセルと言うレプリロイドの写真もある
また、オペレーターや指揮官達の写真もあった
写真の中のエックスもメイド姿だったり女郎姿だったりと冗談なのか本気なのか判らない格好をしている
そして・・・
ふと・・・
隅のほうに張られている数枚の写真が裏返っていることに気がついた
そこだけあいた・・・空白の時間
ファントムは恐る恐る手を伸ばした・・・
「いいよ・・・みても・・・」
後ろで声が響く
振り返ればエックスが寝台の上からこちらを見ていた
「エックス様・・・」
「いいんだ・・・僕も・・・久しぶりに会いたいから」
エックスはそういって体を起こし・・・素足のままで床に降り立つ
そして・・ファントムの触れようとした数枚の写真を表に向ける
最初の写真は・・・
豪奢な簪で髪を結い上げた金髪の美女だった
エックスには不釣合いだった花魁姿はその人物の美貌を極限まで引き出している
赤い長襦袢の上から纏った黒い着物には金銀の糸で牡丹の刺繍がされており
化粧をした美術品めいた顔の中央から覗くラファエルの双眸がこちらを見つめていた
不可思議な雰囲気を纏い妖しく微笑むその姿・・・しかしどこかその表情は堅い
「・・・この女性は・・・?」
「違うよ・・・ファントム・・・これは任務の時の写真・・・これが彼・・・」
エックスが明るく微笑んだ
次にさっと捲られる写真
先ほどとは全く違う人物がそこにいた
黒いスラックスに黒いカッターシャツを纏った美しい青年
しかし帯びた雰囲気は百戦錬磨の戦士のものだ
長い金糸は床に弧を描き円を描き
腰掛けている寝台の上もその文様で覆われている
軽く微笑んだその顔はどちらかというと苦笑に近いが
中央の瑠璃の双眸だけはやさしく写真をとる相手を見つめていた
「これが彼・・・僕の・・・」
エックスはその写真をコルクボードには止めずに自分の手にとる
「僕の・・・大切な人だよ・・・」
そう言って微笑んだエックスの顔はやさしく悲しく深く染まった微笑みだった
彼はそのまま残りの写真も表に反す
全てにおいて手中の人物が映っていた
中にはエックスを愛しそうに抱き締めている写真まである
「エックス様・・・この男は今は・・・?」
「・・・眠ってる・・・僕の為に・・・ううん・・・僕のせいで・・・」
エックスの声がくぐもり始める
「僕が・・・僕が平和をほしがったから・・・彼は眠らなきゃいけなかったんだ・・・」
エメラルドの瞳からぽろぽろと銀色の涙が滴り落ちた
「エックス様・・・」
「こんなのじゃ・・・ないっ!!こんなの平和じゃないっ!!人とレプリロイドの絆は深まるどころか亀裂が走ってる
こんなの“俺”は望んでなかったのにっ!!こんな世界のために“俺”はこの世界を棄てたなんて!!」
「エックス様!!」
慌てて抱き締めたファントムの腕の中で白い四肢をばたつかせてエックスが暴れる
いつもの平静さは何処にもない・・・彼の瞳はただ・・・写真の中の世界を映していた
「こんな世界の為にゼロを・・・ゼロを失ったなんて!!こんな世界の為にゼロと離れ離れになるなんて!!!」
「エックス様、落ち着いてください」
ファントムが有無を言わさずきつく抱き締める
「“俺”はこの世界のせいで失った・・・何もかも・・・」
「エックス様・・・ご安心を・・・我等がお傍におります」
「・・・ファントム・・・」
エックスの瞳がファントムの瞳を見上げた
「・・・ごめん・・・そうだね・・・君達がいる・・・」
天使の青白い顔がそっと微笑んだ
「ファントム・・・君はよく似てるよ・・・」
「・・・似ている・・・とは?」
「・・・ゼロに・・・よく似てる・・・やっぱり遺伝・・なのかな?」
エックスが苦笑する
「遺伝・・・?」
ファントムの漆黒の瞳が訝しげにエックスの瞳を覗き込んだ
「君達は・・・君達四天王はゼロのDNAデータと・・・僕のDNAデータをあわせて作り出した」
天使は手に持っていた写真をコルクボードへと貼りなおす
しかしその言葉は隠将の動揺を誘うものだった
「エックス様!?」
表向きに四天王はエックスの遺伝子データを元に作られたレプリロイドだ
エックスの補佐役に彼の鏡(コピー)を用いてネオ・アルカディアを維持する
その為に作られた
しかし・・・
「表向きには言えないでしょ?オメガの元凶となった伝説のイレギュラーハンター:ゼロ
彼と僕の子供が君達だなんて・・・」
エックスが悲しげに微笑む・・・しかしその笑みはどこか誇らしげで・・・
「エックス様・・・あなたは一体・・・」
「僕が最初に考えた楽園は・・・彼と彼の子供と共に穏やかに暮らす世界だったんだ」
ファントムの動揺をさらに激しくするように彼が続ける
「僕が最初に願った楽園はただ普通の家族としての幸せだったんだ
ボディの性別はすぐに変えられたけど・・・だけどそんな平穏な時間は少しもなくて
だから僕は・・・僕達は待ちきれなくてこっそりそのプロジェクトを始動させた
親しい友人に頼んで君達4人のデータを、ボディ作ってもらった・・・
そして・・・平和な時が来たら君達を暮らせることを夢見て僕らは戦い続けた
けど・・・それは叶わなかった・・・そして・・・ネオ・アルカディアの上層部に君達の存在がバレた」
淡々と語るその瞳は悲痛な輝きに満ちていた
ファントムが息を呑んだ
「・・・君達は友人の研究施設から引っ張り出された・・・
そして上層部は統括者としての任を拒んでいた僕に交換条件を突きつけてきた」
エックスの声に昏い殺気が宿る
「君達を生かす代わりに戦闘型への改造と統括者への就任を・・・ね・・・」
「・・・エックス様・・・あなたは・・・」
「仕方ないでしょ!こうしなきゃ・・・僕には・・・“俺”には何も残らなかったんだっ!!」
ファントムは今更ながら主の性格を見誤っていたことに気がついた
彼は生きた天使ではないのだ
喜怒哀楽全ての感情を持っている
負の感情は露わにしないものの確かに存在する
そしてその刃の先にあるのはイレギュラーだけではないのだ
「・・・ごめんね・・・今日の僕は・・・どうかしてる・・・君に言っても仕方ないのに・・・」
「エックス様・・・」
ファントムがエックスの小さな手に触れる
「我等はいつでもエックス様のお傍におります・・・いつかこの世界がエックス様の望む真の平穏になるよう
我等はその任を任されたことを疎んだことなどございませぬ」
「ファントム・・・」
「エックス様何も残らないのではなく・・・これから何かを残していきましょう・・・」
すっとヘッドパーツをファントムが外す
そこにあるのは写真のゼロによく似た黒髪黒瞳の美青年だ
彼はそっと床に跪き小さなエックスの手を取った
「御身の為であるならばそのゼロという者と相対し、刺し違えてでも平穏を手に致しましょう」
「ファントム・・・」
「この命尽き果てようとも・・・全てはエックス様の為に・・・」
手の甲に彼が軽く口付ける
エックスがぎゅっと彼の頭を抱き締めた
「・・・だめ・・・死んじゃ・・・だめだよ」
涙が黒い絹糸を濡らす
「これから何か残していくなら・・・死んじゃ・・・だめだ」
「エックス様・・・」
「僕は君達が死んでしまったら耐えられない・・・」
子を抱き締める母の温もりはこんなにも温かなものだろうかとファントムはふと考えた
しかし・・・
すっとその小さな体を引き離す
自分達は主と騎士
決して家族ではない
否・・・そうありたいというエックスの願いは、叶ってはいけない
全ては・・・レプリロイドと人間の共存するネオ・アルカディアの為に
「エックス様・・・」
「なに・・・?」
「ご安心を・・・そう易々とは死にませぬ」
「・・・約束だよ?」
「はい」
エックスの微笑みにファントムが応えた
「絶対だからね」
そういったその顔はもう母ではなく皆の幸せを願う統括者のもの
これでいいとファントムは心の中で呟く
「エックス様、もうお休みを、また無理をされては公務を休まれた意味がございません」
「・・・そうだね・・・おやすみ・・・ファントム・・・もう大丈夫だから・・・心配しないで
代わりにハルピュイアを手伝ってあげて・・・たぶんレヴィ達に振り回されてると思うから」
「御意」
ファントムはすっと立ち上がるとはずしていたヘッドパーツをかぶりなおす
「ファントム・・・」
「どうされました・・・?」
主を見つめながらファントムが問うた
「ありがとう・・・」
そのふわりと浮かべた微笑は蕾がほころぶように明るくやわらかい
そして気高く神々しいものだった
「君のおかげで・・・まだしばらくは耐えられるよ」
「エックス様・・・?」
「さ、ファントム、後のことは任せたよ!じゃあ僕は寝るから」
はぐらかす様にそう言われ、ぐいぐいと部屋の外へと押し出される
「じゃあ、おやすみ」
エックスがそう笑って扉を閉ざす
ひどく重く響くその音が・・・2人を別つ
そしてそれが・・・
闇が見た最後の主の姿だった
それから数ヶ月後・・・
エックスは大樹の元でただ静かに眠る・・・一体の人形となった
そして・・・
ここはネオ・アルカディアの深部
ファントムはとんっと大地に降り立った
主が消え失せた今彼に命じるのは主の影(コピー)
「あのお方には指一本触れさせぬ」
そう冷たく言い放つ
視線の先には赤い影・・・
主が失った戦士
そして自分の《断片》(オリジナル)の1人
ゼロ・・・
刃を交えれば交えるほど判るのは
彼もまた闇に生きる者
光を浴びぬ隠の世界を知る者
光を失った戦士と
光が失った戦士が
互いに刃を抜いた
「エックス様・・・ご容赦を・・・」
相手に聞こえぬようにそっと真の主へ紡ぐその言葉
それは死への許しを請うものか・・・
主の愛する者へ向ける刃ゆえか・・・
その言葉の意を知る
高貴な蒼の薔薇(そうび)は
ただ時の歯車を静かに見つめていた
今回はじめてゼロの目の色の形容詞を変えてみた
「弟は渡せない?」でアイスブルーという表現をしていましたが実際のアイスブルーの意味ではなく氷蒼とおなじです
氷のように凍てついた雰囲気をもつ蒼い瞳のいみですので・・・
2度形容詞が出てきますのでわかるかと思いますがラファエルは瑠璃色のことです
他にも色々ウルトラマリンとかラピスラズリとかマドンナとか表現があるのですが・・・
ラファエルの表記にしたのはラファエルが天使の名前だったのでちょっと皮肉ってってことです
『悪魔』に『天使』の名を与える
暗に彼こそ天使にふさわしく、真の天使を守るべき位置の者だといいたかったのですが・・・
また日本語贔屓な小説ができあがっただけな気が・・・(汗)
ちなみに聖母マリアの色でもあるらしいですよ・・・
エックスは空、ゼロは地球・・・いいなこの形容詞
ちなみにサブタイトルはエックス様(もしくはお母様)ご乱心・・・
そしてこの蒼い薔薇の花言葉は『純白』
あ・・・あんまりタイトル関係なかったね・・・
最後付け焼刃で表現を足しましたが・・・
ああ・・・後半適当ですけど、ウイルスメールとか剃刀レターだけはご容赦を
何せ長い・・・長い・・・書いても書いても終わらない・・・
つ・・・次は鬼畜ゼロックスをがんばって書きたいなあ